黄斑円孔入院記(5)

黄斑円孔

出産以外は入院経験のなかった、50代会社員事務職が
オウハンエンコウという眼の病気にかかった時の話です。
今回は手術の話です。

手術

前日、早めに横になったのですが、そもそもの就寝時刻よりもだいぶ早かったこともあって、結局寝たのはいつもと同じ24時過ぎでした。昼間や夜の早い時間には「あまり気にならない」なんて言ってた物音が、しんとした深夜の病棟になると際立ってきてしまいます。明らかに調子の悪そうな声とそれに関連しているのかわからないけど発せられる電子音、ぱたぱたと病室に向かう看護師さんの足音、少しの話声、そしてまたおとずれる静寂・・そんなサイクルを耳の奥に覚えながら目を閉じるうちに、いつしか眠りに落ち、朝を迎えました。

朝6:30すぎに最初の目薬をさします。そのために6時過ぎに起きてまずは洗顔をしました。しばらく洗顔もできないかなと。手術前の目薬は15分に1度さす必要があるのと、そのほかにも目薬があって、種類の違う目薬は、5分間をおかなければならないので、細切れにタスクがある状態w スマホのアラームや5分タイマーが役に立ちました。

そうこうしているうちに点滴用のさきっぽの部分を腕にさすために処置室に行くと、眼科だけではないでしょうが10人ぐらいの患者さんがそこに並んでおられました。こんなに今日一日で手術する患者さんがいるんだ・・・。
その後病室にもどって点滴をつなぎ、待機。

私は朝1番の手術で9時30分開始だったので、9時ごろ、看護師さんに連れられて点滴スタンドを自分でごろごろやりながら、歩いて手術室の前の待合室に向かいました。いろんな科のいろんな手術の場所になっているのか、私の前にベッドに横になって中に入っていく患者さんや、ベビーベッドのようなさくのあるベッドの中で つかまり立ちしながら中に入っていく幼児の患者さんが通り過ぎます。それを見送りながら、私なんかより重症で緊急な手術もきっと多いんだろうなあ、がんばれー!なんて思いながら呼び出されるのを待っていると、名前を呼ばれたので私も中へ。案内されるがままにベッドに仰向けになりました。

ベッドは意外と横幅も狭い、診察室にあるような簡易的な寝心地のもので、看護師さんが心電図をとるプローブをつけてくれました。「手術の際は前あきのパジャマ着用のこと」と注意書きにあったのはこういうことだったんだなー、なんて思っていると主治医の先生登場。
「ではこれから始めますけど、そんなに酷いことはしないつもりだから、楽にしてね」と相変わらずの柔らかい口調でおっしゃいました。そばには昨日の若いお医者さん。ここは大学病院なので、実地教育もこうやって行うのでしょうね。教育はいいけど執刀はさせないでね(笑)なんて思いつつ、手術開始です。

もともと手術そのものへの恐怖感は抱いていなかった私、むしろ「眼の手術ってどんな景色が見えるのだろう?」とすら思っていました。それよりも心配だったのは麻酔で、手術は麻酔をしているから痛みはないだろうけど、その麻酔を打つときは眼に注射するのかしら?それって相当痛いんじゃないかしら?? という方が恐怖でした。しかし結果、その麻酔も全然痛くありませんでした。あまり覚えていないのですが、多分注射するまえに表面麻酔的なものをやったのではないかと思います。

一方、残念ながら(!)眼の手術で見える景色も、期待に反して全く見えませんでした。というのは、最初に、手術する左眼以外の顔はマスクのようなもので覆われてしまいます。そして、患部の左眼は開けた状態でテープで固定したあと、その上からビニールシートのようなもので覆われてしまい、さらに強い光をもろに浴びるのです。右眼をあけてもシートしか見えないし、左眼はまぶしくて何も見えないし。
途中「これがガスを入れるということかしら」という感じで、黒い水のなかに黒いインクをたらしたような、徐々に広がっていくようなものがみえたのと、最終段で「あ、これピンセットなのかも」というおぼろげな影と縫っているようなうごきが見えたことぐらいで、密かに期待していたような、めくるめくサイケな光景はまったく見えませんでした。

背後で「ね、こんな感じで3ミリぐらいのなんとかかんとか」と主治医の先生が言い、若い先生が「あー、ほんとですね、キレイにいってますね」みたいなことを答えているのがわかるので、きっとなにかしら示しながら何かが行われているんだなー、ということだけが分かります。
この、「意識はしっかりあるけど何をされているか全くわからない感じ」は何だったろう?と考えて、思い出しました。親知らずを抜かれるときと一緒でした。

事前の準備も入れて1時間たつか経たないかでしょうか、「痛くないでしょう?、もうすぐ終わりますからね」と話しかけられ「はーい」と答えるほど、まったく委縮するポイントはないまま、手術終了。

左眼の上にプラスチックで補強されたお皿状の眼帯をつけられ、
「はい、では今となりに別のベッドが来ましたので、そのままうつ伏せになるよう転がってとなりに移ってください」と言われ、ゴロっと移動するとそのまま、ベッドごと運ばれて、もとの病室までもどりました。

運ばれている途中「今からはなるべくこのうつ伏せの姿勢ですごしてくださいね」と念押しされました。整体に行った時のような円形のうつぶせ枕ではなく、U字型のウレタンのような物体の枕だったので、んー、これは工夫しないと息が苦しいかも。もぞもぞすると、腕についている点滴の管がうっとうしいです。手術自体は全然なんということなかったのですが、やっぱり非日常で疲れたのか、朝の手術後、昼までそのまま爆睡してしまいました。